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多発性硬化症センター

MSについて

もくじ

概念

多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)は、中枢神経(大脳、小脳、脳幹、脊髄)を場とし、多発性の病変を形成する炎症性自己免疫疾患である。炎症性という意味は、Tリンパ球や抗体、マクロファージなど免疫応答に関与する因子が病態形成に関与し、病変部位にリンパ球の浸潤が認められることを言う。通常、免疫応答は体内に入った異物に反応し排除する体の生体防御反応であるが、時に自己の構成蛋白や糖鎖に対して反応し、組織傷害を起こすことがある。こういった病態により症状を呈した疾患を自己免疫疾患(autoimmune disorders)と言う。

MS患者のリンパ球が何に対して反応しているのかは、未だにその詳細は明らかではない。ただ、MSは従来、脱髄疾患(demyelinating disorders)と言われてきた。これは、髄鞘(myelin:ミエリン)が傷害されて剥がれ落ちてしまうために、こう命名された。中心神経のミエリンと末梢神経の髄鞘は、それぞれ髄鞘を構成している細胞が異なり、前者はオリゴデンドログリア細胞(oligodendroglia)、後者はシュワン細胞(Schwann cells)で、それぞれの細胞質が軸索を巻くことで髄鞘を形成する。髄鞘を構成している蛋白は中枢神経と末梢神経とでは異なっていて、そのことがリンパ球が反応する抗原の違いとなり、中枢神経を傷害する自己免疫疾患(MS)と末梢神経を傷害する自己免疫疾患(免疫性ニューロパチー)という、異なる疾患を生じることとなる。ただ、一部は両者の髄鞘で共通しており、稀に、CIDPを合併するMS、という病態が生じうることとなる。

髄鞘を構成している成分の違い (%)

中枢神経 末梢神経
Myelin basic protein (MBP) 30-40 5-15
P2 - <5-20
Myelin proteolipid protein (PLP) 50 0
P0 0 >50
Myelin-associated glycoprotein (MAG) 1 <1
2’, 3’-cyclic nucleotide 3’-phosphohydrolase (CNP) 4-5 <1

髄鞘が傷害されると、二次性に軸索が傷害されることは従来から指摘されてきた。ところが、最近になって、CD8陽性細胞傷害性T細胞が直接軸索を傷害することが示された。このことから、MSは単純な脱髄疾患ではないと言える。

歴史

有病率が全く異なるが、歴史上の有名人で、てんかん患者であったというヒトは少なくないが、再発緩解を示すというユニークな疾患であるにもかかわらず、MSらしき症状の記載は歴史的文書での記載に乏しい。本当に過去にはほとんどなかったのかもしれないし、あっても病像がずいぶんと異なっていたのかもしれない。

近代神経学の父であるCharcotは、MSの概念確立にも貢献した。Charcot’s triadとして知られる、intension tremor, nystagmus, scanning speechは小脳病変による神経所見であるが、小脳症状が欧米人のMSでは起きやすいことを物語っている。

1921年に開催された欧米の学会では、Multiple sclerosisという名称とDisseminated sclerosisという名称が使用されていた。前者は英国で後者は米国で主に使用されていた名称であった。

我が国では近年、CMSが増加しているが、1967年に米沢が初めてCMS国内剖検例を報告するまで、すべて剖検例はOSMSで、CMSの臨床例の報告も1952年が初めてと言われている。戦後になって国内に初めてCMSが登場したとすると、第二次世界大戦で英軍が駐留後にMSが発症するようになったとされるFaroe諸島と同じように、連合軍の進駐がCMSの登場と関連しているのかもしれない。

1972年の厚生省特定疾患MS調査研究班による診断基準では、発病年齢は15~50歳とされていたし、症状に再発や緩解があるとされ、一次性進行性MS(PPMS)は考慮されていなかった。今日では、幼児期に発病し、剖検で病理学的に確認された患者もいるし、80歳以上で発症した剖検例も知られていて、発病年齢の制限は撤廃されている。

疫学

欧米各国や本邦ではMS患者数が増加している。有病率の増加の一部は、神経内科医の増加やMRIの普及により、診断が容易になったこと、早期に診断できるようになった上、治療やケアの向上で寿命が延びたことで、患者数が増加した可能性はあるが、疫学調査をした地域では、どこでも女性患者の割合が増加していることから、上記の理由だけでなく患者の実数が増加していると考えられている。

かつて、MSの疫学として最も有名だったのは、高緯度地域に有病率が高いことから日光照射量の低下によるビタミンDの影響が考えられ、、戦後イスラエルが建国された際にヨーロッパからイスラエルへ移住した人々の調査から、15歳以降に移住した人々では移住前の高頻度地域の影響を受けて有病率が高いことから、思春期に何らかの病原体に感染することが影響するのではないかと考えられた。

しかし、今日では、前者が認められるのはヨーロッパ、米国、ニュージーランドなどであり、日本を例外として、他の地域は有病率の高い北部ヨーロッパからの移民の影響が強いとされ、バイキングの遺伝子の拡散と想定されている。南半球では同じように北部ヨーロッパからの移民が多い、オーストラリアやニュージーランドでは北半球ほどには緯度の影響が少ないため、南半球ではなんらかの抑制因子が働いているのではないか、という意見もある。ビタミンDが直接、高緯度地域での有病率の高さを説明できてはいないが、ビタミンD自体には免疫抑制作用があるので、MSへの治療効果は証明されている。

外因として、最も可能性が以前から指摘されてきたのはウイルスであるが、ほとんどが否定されてきた。外部から持ち込まれた病原体の影響が最も強く示唆されたのは、北大西洋のデンマーク領、Faroe諸島でのKurtzkeらによる長期にわたる疫学調査である。彼らは、第二次世界大戦で英軍が島に進駐するまでは患者がいなかったのに、その後に流行が起きたことから、軍隊が持ち込んだペットなどが問題とされ、特にイヌ・ディステンバーウイルスなどが候補に挙げられたが、否定された。その後、13年周期で小流行を繰り返していることから、Kurtzkeは次の世代に病原体が感染したのではないか、と考えた。Poserは、Kurtzkeらの戦争以降にMS患者が発生したこと自体が、疫学上の計算間違いであると批判している。最近、麻疹との関連を示唆するデータが数多く報告されており、ウイルスの構成蛋白とMBPとの間に分子相同性(molecular mimicry)があることが示され、麻疹ウイルスが発病のきっかけになっているのかもしれない。

以前、日本での有病率は人口10万人あたり1.6から3.9と言われ、南北差はないと言われてきた。2004年の全国調査ではこの有病率が7を超え、欧米と同じく、日本でも患者数が増加していることが判明した。また、37度線を境に有病率が異なることが九大の吉良により示されており、日本でも高緯度地域では有病率の高さが証明された。これはOSMS (opticospinal MS)は差がないが、CMS(conventional MS)の南北差が影響している。

MSになりやすさは遺伝的に規定されている(MS susptibility gene)ことは間違いない。ハンガリー人での有病率は10万人あたり37であるが、同一地域に居住していながら、ロマ人(ジプシー)ではわずか2でしかない。Sardinia島での有病率の高さが有名となったが、島内の地域差が顕著で、使用する言語によって異なる。このような例は数多い。また、双生児研究では、二卵性より一卵性双生児のほうが同胞発症率が高いことからも裏付けられている。しかし、一卵性であっても、SLEやIDDMより同胞発症率が低い。養子の研究では、家族内での外因の影響はないことが判っている。

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病理・病態

MSは自己免疫疾患と考えられている。その根拠は、

  1. 病変部位に活性化されたCD4やCD8陽性細胞、マクロファージの浸潤や抗体の沈着が認められ、末梢血や脊髄液リンパ球にさまざまな異常が認められる。
  2. GlucocorticoidやCyclophosphamide、Mitoxantrone、Riximabが有効で、Interferon-gで増悪する。
  3. MBPやPLPを抗原として免疫することで、マウスやラットに動物モデルを作製できる。以前、SCID マウスに患者リンパ球を移入することで脱髄病変を形成できると報告されたこともあるが、その後、この結果は確認されていない。

さらに、 MSはCD4陽性T細胞のサブセットである、Th1による自己免疫疾患と考えられている。
その根拠は、

  1. IFN-g投与で増悪する
  2. 末梢血や脊髄液でIFN-gやTNF産生が亢進する
  3. 進行性MSでIL-12の産生が亢進する
  4. 病変部位でIL-12 (Th1を誘導)やB7.1が証明される
  5. Th1によるEAEとの類似性がある

MSはheterogenousな疾患である。欧米では、後述するOSMSとほぼ同一の疾患と考えられるNMO (Neuromyelitis optica)を別にしても、MSは単一な疾患ではないと考えられてきた。

障害部位から、本邦では視神経と脊髄を主に傷害する視神経脊髄型MS(OSMS)と大脳、小脳を中心に中枢神経全般を広汎に傷害する通常型(conventional MS: CMS)とに分けられる。従来、我が国では、OSMSをその名の通りMSと考えており、CMSとOSMSを両極とする単一疾患のスペクトラムを形成すると考えられてきた。欧米では、NMOはMSとは考えられてはいないので、日本でのデータを欧米と比較する際に混乱が生じる。

OSMS/NMOは有色人種に多いといわれ、アジア人の他、アフリカ系アメリカ人、カナダの原住民、オーストラリアのアポリジニーに多く認められる。一方、CMSはもともとVikingの病気と考えられているように、白人での有病率が高い。しかし、Vikingの侵攻を受けていないSardinia島のようにむしろ周囲より有病率が高い地域もあって、前述したように、外因の影響も大きい。

NMOが次第に概念が広くなっているように、CMSとOSMSとの言葉の定義も混乱しており、OSMS患者が大脳や小脳症状を呈するとCMSと分類されているが、両者の病理像が全く異なり、その病態が全く異なるはずであることを考えると、奇妙である。

OSMSもNMOも元来はsymptom complexであって、症状で定義されているに過ぎなかったが、最近、Mayo Clinicから報告されたNMO IgGはこの考え方に修正を求めることとなっている。OSMSの重症型と考えられ、通常のCMSでは出現しないとされる、3椎体以上の長さを有する脊髄病変を呈する病型(当院では、これをLong spinal cord lesionを有するMSとして、LCL-MSと呼んでいる)の6割でNMO IgGが陽性であることが判明した。当院との共同研究により、新潟大学脳研究所神経内科の田中恵子助教授は、世界で二番目にNMO IgGの対応抗原であるaquaporin-4の遺伝子を組み込んだトランスフェクタントを標的とした抗体測定系を確立し、LCL-MSの疾患マーカーであることを報告した。さらに、LCL-MSの多くで脳症状を呈することが判明し、symptom complexとは言えないようになってきた。

LCL-MSの特徴としては、各種自己抗体が認められることが多く、シェーグレン症候群の合併が多い。5年以上、pure OSMSに留まる患者もわずかながら存在し、特定の臨床的特徴を有するが、一方で、OSMSの軽症型が近年増加しているといわれていて、この一群がむしろCMSに患者背景が近いという報告もあって、OSMSという歴史的な名称が今後どうなるか、予断を許さない。

経過によってもheterogenousな病型が認められる。典型例は再発緩解型(relapsing-remitting MS: RRMS)で80-90%をしめ、一部は二次性進行型(SPMS)へ移行する。SPMSで再発を伴うこともある(SPMS with repalses)。国内ではごく少ないが、最初から変性疾患のように慢性進行する経過をたどる一次進行型(PPMS)もある。  

九大でのOSMSの特徴をまとめた報告によれば、
本邦でのopticospinal MS(OSMS)の特徴は、

  1. 国内分布は高緯度地域ほどMSの頻度は高いが、OSMSはむしろ南ほど頻度が高い。
  2. 高齢発症が多い
  3. 女性優位
  4. conventional MSより再発頻度が高い
  5. EDSS scoreが高い
  6. 進行が早い
  7. CSFの細胞数が多い
  8. CSF oligoclonal IgG band出現率が低い
  9. 画像では数椎体にわたる長い病変が多い。壊死病変が特徴的で脱髄だけでなく軸索傷害が強く、cavityを形成することも。脊髄萎縮をきたすこともある。
  10. 血管壁の肥厚や血管増生、血管周囲リンパ球浸潤も。
  11. HLA-DPB1*0501が90%以上で。このalleleはアジア人に多く、白人に稀で、OSMSの頻度と合致。これに対して、conventional MSはHLA-DRB1*1501。
  12. double-stranded DNA antibodies, cardiolipin antibodies, thyroid antibodies, neutrophil cytoplasmic antibodiesなどの自己抗体陽性頻度が高い。
  13. 九州地区では1960年代以降に生まれた患者群では、conventional MS/OSMS比が増加する。OSMS患者数は変化がなく、比が変化している。MS患者数が増加していて、増加分がconventional MSに相当。

予後からは、良性と悪性という特殊型が存在する。良性のMSは、発症後数週間で死亡する悪性の多発性硬化症(Marburg's variant)とは対照的に、発症後10年経過した時点で、全く障害がないか、EDSS scoreが3以下のものをいう。ただ、発症した当初から予後が解るわけでは必ずしもなく、多発性硬化症の中で一つのサブグループを形成しているわけではない。

Mayo ClinicのDr. Rodirguezらは、WienのProf. Lassmanと共同研究で、MS発症早期の脳生検で4つの病理に分類でき、一人の患者で認められる病理像は一つであると報告した。146例の内訳は

Patern I T cell-mediated(macrophageassociateddemyelination)19%
ex). MBP induced EAE
Patern II antibody-mediated demyelination 53%
ex).NMO, MOG induced EAE, characteristic of acute Marburg cases
Patern III distal oligodendropathy 26%
ex). Balo, Theiler's virus induced EAE
Patern IV oligodendrocyte degeneration in the periplaque white matter 2%
ex). PPMS, Cuprizone induced demyelination

この分類には、同一患者でも複数のパターンを示すことがあると、批判もある。


MS再発の機序は、個々の例では明らかではないことが多いが、可能性としては、

  1. ウイルス感染
    感染病原体に反応して、autoreactive T cellsが活性化される。この機序としては、molecular mimicryによる病原体のpeptide、メチル化されたDNA (CpG)、スーパー抗原。
  2. 食物や花粉のような外来性抗原がtriggerになることもあるかもしれないとして、食物の例としては、牛乳に含まれるMOGと構造が類似した蛋白、Butyrophilinが挙げられる。
  3. 精神的ストレス
  4. 性周期
  5. NK細胞のようなimmunomodulationに関与する細胞がへばって、再発する可能性もあるかもしれない。
症状

多くの場合、前駆症状はないが、時に発熱、頭痛が認められることがある。急性に発症し、症状は1週間以内に完成する。急性型をMarburg型とも言う。

経過中に出現する神経症状としては、中枢神経病変に基づく症候であればなんでも出現しうるが、特に多いのは、

  1. 痙性麻痺(対麻痺が最も多い)、深部腱反射亢進、Babinski徴候陽性
    脳血管障害での片麻痺とは異なり、本症で一側上下肢の筋力低下が出現しても、顔面神経も傷害されることは稀で、片麻痺と言っても脳症状ではなく、その責任病変は頚髄である。
  2. 感覚障害(一定の脊髄のレベル以下の全感覚障害やしびれ感が多い)
  3. 視力低下
    眼底は視神経乳頭が蒼白になったり(視神経萎縮)、軽度の場合は乳頭の耳側が蒼白となる(temporal pallor)。 
  4. 神経因性膀胱
  5. 小脳性失調、眼振、構音障害
  6. 眼筋麻痺
    核間性眼筋麻痺、特に両側性の場合は、本症によることが多い。MLF症候群とも言う。内側縦束(MLF)の障害で、対側への側方注視に際して、患側眼の内転障害と外転眼の眼振を生じる。輻輳は正常である。
  7. 有痛性強直性痙攣
    四肢の一定部位に疼痛と痙攣が相次いで出現し、それが一定方向へ放散する発作である。急激に発症し、持続は1分以内、体動や体位変換、深呼吸、皮膚触覚刺激(trigger zoneを有することが多い)などによって容易に誘発される。特殊な異常感覚が先行することが多い。
    ある一定部位に始まって、一定方向に向かって急速に拡大する。テタニー様の強直痙攣で、激痛または異常感覚を伴う。意識障害はなく、発作中の脳波は正常である。軸索のイオン透過性を低下させることによると言われる。Carbamazepineが有効。
  8. Lhermitte徴候
    「レールミッテ」ではなくて、「レルミット」が正しい。仰臥位で頸部を他動的に前屈させた際に、電撃痛が項部から脊柱に沿って上から下へ走り、下肢末梢に達したり上肢へも放散する。疼痛は直ちに出現し、動かすたびに反復する。項部強直を伴わない。頸部前屈時に頸部後索が伸展圧迫され、脱髄部にインパルスの異常伝播が起こり、疼痛が放散する。後索を傷害する疾患で同じ放電様の痛みを引き起こす(後索痛)。病変が主に髄鞘を侵し、軸索がほとんど無傷で残存していることがこの疼痛と関係していると言われている。
    MSに特異的ではなく、頸部損傷、頸椎症、脊髄腫瘍、亜急性連合性脊髄変性症、クモ膜炎、放射線脊髄症などでも出現する。この徴候は有名であるが、患者に苦痛を与える検査なので、あまり行うべきではない。
  9. 疲労感
    様々な原因で疲労感を訴える。両側前頭葉病変との関連も示唆されている。前触れもなく、突然、疲労感が出現する特徴がある。
    加温や運動により症状が一過性に増悪する場合がある(Uhthoff現象)。ブロックが増悪するだけで、病変が増悪することはなく、時間が経過すれば元に戻る。  

視神経炎、核間性眼筋麻痺、”useless hand”、Lhermitte徴候、亜急性感覚障害、特に若年男性の急性排尿障害、不完全横断性脊髄炎、若年者の三叉神経痛を含む発作性症状、温度や運動により誘発される症状、分娩後の発症。こういった症状は本症を疑わせる。一方、早期から痴呆を呈したり、失語、意識障害、痙攣、ブドウ膜炎、錐体外路症状、線維束性攣縮といった症状は、MSでは稀である。しかし、稀には失語、意識障害、痙攣、錐体外路症状が出現しうる。発症から時間が経過すると、脳萎縮の進行に伴い、知能が低下することもあるし、パーキンソン症状をはじめ、すべての不随意運動が出現しうる。これは、cortical demyelinationやそれによる周囲の神経細胞への影響、軸索障害による神経細胞自身へのダメージにより、単純な白質病変だけではないことを物語る。


MSの発作性症状としては

  1. painful tonic seizure
  2. paroxysmal dysarthria and ataxia
  3. sensory seizure
  4. paroxysmal pain
  5. paroxysmal itching

大体は、脱髄斑における刺激の発生と、神経線維から神経線維への興奮のlateral spreadにより発現するとされている。持続は1分以内で、脳波異常を伴わない。

発作性に掻痒が出現するのはMSだけとも言われているが、MSの発作性掻痒症の特徴は、

  1. 発作は突然に生じる。
  2. 発作は日に数回から数十回繰り返される。
  3. 1回の発作の持続時間は数秒から数十分。
  4. 発現部位は異常感覚や感覚過敏帯の最上方に分布する傾向があり、分節性の分布をとる。左右対称性がほとんど。
  5. 接触によって誘発されることがあり、入浴・運動により増悪することがある。
  6. 副腎皮質ホルモン剤、時にTegretolが有効。
  7. Lhermitte徴候、painful tonic seizureを合併する頻度が高い。
  8. 症状増悪期に出現することが多い。
  9. MRIでは症状発現部位に一致する脊髄高位に病変が認められる。責任病巣は脊髄背側部か?症状の左右差は病変の左右差を示唆。

Tumefactive demyelinationという病態が知られている。脳腫瘍や脳膿瘍と誤診されるような腫瘍性病変が白質に認められる疾患がある。

鑑別を要する疾患としては、

  1. multiple sclerosis
  2. ADEM
  3. abscess
  4. lymphoma
  5. tuberculosis
  6. cysticerosis
  7. astrocytoma
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検査

脳MRIが最も疾患特異的で、他の検査は診断する上での参考データである。

CSF所見

2006年4月からIgG index, MBP, OCBが保険適応され、利用しやすくなった。本症では中枢神経内でIgGが産生されている。それを証明する方法として、IgG indexが利用される。この計算には、spinal tap時に採血が必要である。求め方は、IgG index=(CSF IgG/serum IgG)÷(CSF albumin/serum albumin)で、正常値は0.73以下である。 オリゴクローナルIgGバンド(OCB)というのは、髄液中にオリゴクローナルに増加したIgGのことで、中枢神経内で産生されるIgGが特定の抗原と反応していることを示唆している。健康人の末梢血のIgGは特定の抗原に対する抗体ではないので、ポリクローナルであり、骨髄腫のように特定のクローンが増殖して産生されたIgGはモノクローナルである。等電点電機泳動で脊髄液を泳動し、血清中にはないIgGバンドが脊髄液中に2本以上認められた場合に陽性と判定される。アガロースゲル電気泳動で流しただけで、その上、血清IgGと比較しないで検査している業者もいるので注意を要する。これでは、OCBは検出できない。病型によって、OCB陽性率は異なり、CMSでは約70%、OSMSでは約10%と低く、両者で病態が異なることを示唆している。OCBは疾患特異的ではなく、慢性炎症性病変では出現しうる。脱髄病変により、脊髄液中のMBPが上昇する。

MRI

脳MRIではaxial とsagittal sectionにて、T1, T2, FLAIRを撮影する。前者で3方法で、後者でFLAIRをルーチンで使用し、前者では5 mm間隔で1 mmギャップで撮影し、時間の関係で造影する場合は注射前のT1撮影は必ずしも行う必要はない。FLAIR画像は特に脳室周囲の病変やjuxtacortical lesionを検出しやすい。脊髄のMRIは、axialとsaggital sectionでT1とT2で撮影する。FLAIRは頭部と異なり、適さない。

症状を呈した再発の5-10倍の頻度でMRIで再発病変、つまりは造影病巣が認められる。このため、再発とは関係なく、脳MRIを毎月造影検査をすることで、病気の活動性を見ることができるが、脊髄MRIを頭部と同じように毎月造影撮影する理由はない。というのは、脊髄では病変が形成されれば症状を現し、asymptomatic lesionsが認められることはないからである。 静注後10-15分後に撮影できるように静注すると、造影効果が最も効果的と言われる。新病変が形成された際に88%は造影されるが、残りは新しいT2病変として、あるいはT2病変の拡大として認められるに過ぎない(Ann. Neurol., 46:197-206, 1999)。

造影病変では血液脳関門の破壊と炎症性Tリンパ球浸潤が認められる。造影効果は通常4週間持続し、さらに2から4週間にわたって徐々に造影効果が減弱する。この造影効果はステロイドに鋭敏で投与されるとすぐに消失してしまうので、造影病巣の検出はパルス前に施行しなければならない。リング状に造影される場合、灰白質に面した部分が欠ける”open ring imaging sign”を呈することが腫瘍や膿瘍との鑑別に役立つと言われる。

脳MRIでは、T1低信号病変が急性期に浮腫のために一過性に認められることがあるが、慢性に認められる場合は軸索障害と相関する。慢性期に認められるblack holesは非可逆的な組織障害を意味し、新しいT2高信号病変の30%がblack holesになるという報告もある(Arch. Neurol., 56:345-51, 1999)。

T1低信号病変はdisabilityと良く相関するという。  一般的に、Gd造影病変の数は、疾患活動性と相関する。しかし、本症患者の50%は活動性とは関係なく、造影病変が認められる、という報告もある(clinico-radiological paradox)。

一つのスライスで認められる造影病変の数は、その後の再発率を予言するといわれ、その後の造影病変を形成する活動性やT2病変と相関する。しかし、造影病変はEDSSの進展を予言しないので、再発の機序とdisabilityが異なる機序であることを示唆する。つまり、治療とも関係することであるが、前者は炎症性病変、後者は変性過程、という病態の違いがあるからだと思われる。MSには、この二つの病態が存在している、というのが今日のMS Researchの常識といえよう。

T2およびFLAIR画像で脱髄病変が高信号で認められる。cortical demyelinationは画像上認められることはなく、深部白質に多く認められる。T2高信号病変は、年間5-10%ずつ増えてゆくといわれる。稀に、皮質を含む大きな病変(Tumefactive demyelination)や基底核も病変に含まれることもある。

白質病変は側脳室周囲に局所的にあるいはびまん性に、さらにそれらが融合して分布する。皮質下白質(U-fiber)の病変(juxtacortical lesion)や脳梁の病変(脳梁の下部に円弧状に認められる病変を九大グループは、rim-like lesionと呼んでいる)が認められることがあり、これらは虚血性脳血管障害では傷害されない部位なので、特に高齢者での診断には有用である。

ovoid lesions

縦軸方向が側脳室壁に対して向く卵形のovoid lesionやsagittal sectionで見たときに(特に、FLAIR)側脳室から上方へ燃え上がる炎のように見えるperivenular lesion(Dawson’s finger)は、静脈周囲の炎症病変を意味し、動脈中心の血管炎との鑑別に有用である。また、視床下部病変が認められることもある。

年単位で脳萎縮の進行が認められることがあり、この場合、側脳室拡大も認められる。大脳萎縮は、毎年0.6から0.8%認められ、これは一般住民の2から3倍という(Neurology, 54:807-12, 2000; Neurology, 53:1698-704, 1999; Brain, 124:1803-12, 2001)。これは毎年8cm3喪失することを意味し、脳室拡大は健康人の3倍進行する(1.6 versus 0.3 cm3/year)。

また、脳萎縮の進行の程度は、RRMSよりSPMSでより速い。脳萎縮は、Clinically isolated syndromes (CIS)だけでなく、RRMSの初期から始まっており、脳萎縮が増加は罹病期間やdisabilitと相関する。脳萎縮は、特に、進行性経過の患者(PPMS or SPMS)ではdisabilityと良く相関すると言われる。欧米では、患者の50%で小脳病変が認められるが、日本人例では少ない。 脊髄MRIでは、T2高信号病変が認められる。OSMS患者の中には、3椎体以上の長い脊髄病変が認められることがある。また、脊髄萎縮のために紐のように見えることもある。

 3椎体以上の長い脊髄病変脊髄萎縮
MRIによる診断基準

MRIの診断基準には様々な報告があり、感受性と特異性が欧米の患者を対象に検討されている。以下の診断基準のうち、Barkhofの診断基準が最も特異性が高いため、McDonaldの診断基準でも採用された。

Paty、Fazekas、Barkhofの診断基準の感受性と特異性は以下のようである(AJNR, 21:702-6, 2000)。これらは、脳MRIでのMSの特徴的な所見であることを示している。


感受性 特異性 基準
Paty 86% 54% Paty (Neurology, 38:180-5, 1988)
3 or 4 lesions, 1 of which is periventricular
Fazekas 86% 54% Fazekas (Neurology, 38:1822-5, 1988)
3 lesions, including 2 of the following;
Infratentorial location
Periventricular location6 mm lesion
Barkhof 73% 73% Barkhof (Brain, 120:2059-69, 1997)
3 of four are required;
Gadolinium-enhancing lesion or presence of ≧9 T2 lesions
1 infratentorial lesion
1 juxtacortical lesion
3 periventricular lesions
生理検査

McDonaldの診断基準では生理検査(ABR, SEP)の重要性は否定された。これは、MRIでの診断レベルの向上により、疾患特異的な結果が得られる検査法が重視され、結果として神経生理検査所見が診断基準から外された。VEPのみ視覚障害の空間的多巣性を他覚的に証明する手段として、診断基準でも採用されている。しかし、機能障害を他覚的に経過を評価できるということでは、他の生理検査も日常診療での重要性は決して低いとは言えない。

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診断基準―(神経内科 2004;60:113-5.より)

McDonaldの診断基準 (2005年秋に改訂されているが、改訂版の追加修正は後日に)この基準を満足しない場合は、possible MSとする。

I. 2回以上の発作があって、2ヶ所以上の病変を証明する客観的な証拠のある場合

時間的空間的多発性を示す病変の証拠があって、2回以上の発作があれば、検査データは不要である。しかし、この場合、MRIあるいは脊髄液所見あるいはVEPで異常所見を示すことが期待され、仮にこれらの検査が正常であった場合は、診断にはきわめて慎重であるべきである。

II. 2回以上の発作があって、病変を証明する客観的な証拠が1ヶ所しかない場合

  1. MRIで証明された、空間的に異なる2番目の病変の存在が必要となる。
  2. MRIで証明された、MSに合致した、少なくとも2つ以上の脳病変あるいは一つの脳病変と一つの脊髄病変の存在があって、さらに脊髄液所見が陽性である必要がある。
    診断には、1)あるいは2)の条件が必要。
    あるいは、MRI画像がない場合、
  3. 異なる部位による再発が出現するまで診断を保留する。

III. 1回の発作と2ヶ所以上の病変を証明する客観的な証拠のある場合

  1. MRIで証明される時間的多発性が必要**
  2. MRI画像が得られない場合、時間的多発性を証明する2番目の発作が必要
    診断には、1)あるいは2)の条件が必要。

IV. 1回の発作と病変を証明する客観的な証拠が1ヶ所しかない場合 (clinically isolated syndrome*)
時間的・空間的多発性の証明が必要である。

  1. 空間的多発性の証明
    a). MRIによる証明**
    b). MSと思われる2ヶ所以上のMRI病変と脊髄液所見
    a)かb)の一方が必要。
  2. 時間的多発性の証明
    a). MRIによる証明**
    b). 次の再発をまつ
    診断には1)と2)の両者が必要である。

V. 潜行的に発症し、慢性進行性に経過する場合 (Primary progressive MS)

  1. 脊髄液所見
  2. 空間的多発性の証明-MRIやVEPにより証明する
    a). MRIで9ヶ所以上のT2病変の存在
    b). 2ヶ所以上の脊髄病変
    c). 4-8ヶ所の脳病変と1ヶ所の脊髄病変
    d). VEPの異常と4-8ヶ所の脳病変
    e). VEPの異常と4ヶ所以下の脳病変と1ヶ所の脊髄病変
    a)-e)のいずれかを満足する必要がある。
  3. 時間的多発性の証明
    a). MRIによる証明**
    b). 1年以上進行する経過 a)あるいはb)のいずれかを満足する必要がある。
    診断には1)2)3)とも満たす必要がある。

除外診断の必要性

MSを強く示唆する臨床所見や検査所見がある場合であっても、MS以外では説明できないことが重要である。

clinically isolated syndrome (最初のエピソードからなる症候群):一側視神経傷害あるいは脳幹あるいは脊髄傷害からなる症候群で、多発性硬化症の早期の臨床的なエピソード(Neurology, 53:1184, 1999)

空間的多発性

以下の4項目のうち、3項目を満たす必要がある。

  1. 一つのGd造影病変あるいは造影病変がない場合はT2強調画像で9つ以上の病変
  2. 少なくとも一つのテント下病変
  3. 少なくとも一つのjuxtracortical病変
  4. 少なくとも3つの脳室周囲病変

cross sectionにて病変は少なくとも3mm以上の長さが必要。
一つの脊髄病変*は一つの脳病変として数える。
* T2強調画像で少なくとも3mmの長さが必要だが、2椎体以下の長さ。病変はcross sectionでは脊髄の一部であって、全体であってはいけない。脳病変がなくて、二つ以上の脊髄病変だけでMSの画像上の時間的空間的多巣性が証明される場合もあり得るが、この件については今後とも検討が必要と考える。MSの脊髄病変の画像については、感受性や特異性の検討が今後必要。

時間的多発性
  1. 最初のMRIが発病3ヶ月以上経過した後の場合。最初の症状とは関連のない部位にGd造影病変があった場合は、以前の病変ではなくて新たに形成された病変として考える。仮にこの時に造影病変がなかった場合には、3ヶ月後に取り直すべきである。この時、新たなT2高信号病変あるいは造影病変が認められた場合に、時間的多発性が証明される。
  2. 最初のMRIが発病の3ヶ月以内だった場合。発病の3ヶ月以上経過後に撮影された、2回目のMRIで新しいGd造影病変があった場合に、時間的多発性が証明されたと考える。仮に2回目の時点で造影病変がなかった場合は、最初の撮影から3ヶ月以後に撮影されたMRIで新しいT2病変があるか造影病変があれば、時間的多発性が認められた、と考える。
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治療
急性期

再発時には、メチルプレドニゾロンを1g/dayを維持用の電解質液200mlに混ぜて3日あるいは5日間、点滴する。再発であるかどうかを判断することは、時に困難なこともある。病変が存在すると想定される部位のMRIは、必ずしも必要ではない。MRIにより再発病変が認められなくとも、必要と考えられた場合、ステロイド・パルスを行うべきだからである。再発後無治療であっても、4週間以内であれば、パルスを試みる価値はある。

再発・進行防止

発症早期から臨床的に明らかな再発がなくとも、脳内ではMRIで検出できる再発が進行していること、脳萎縮が発症初期から進行していることから、早期診断治療が必要であり、そのためにMcDonaldの診断基準が提案された。特に、CISの段階での診断と治療が必要である。

FDAとEMEAで承認されたMSへの薬剤効果

CIS RRMS SPMS

with
relapses
SPMS

without

relapses
SPMS

without

relapses
IFNβ1b
IFNβ1a
Azathioprine -*
Mitoxantrone

* FDAは認めていない。 EMEA: Europe  Medicines Agency
(Expert Rev Neurotherapeutics 2008; 8: 433-55より、一部変更)

disease-modifying drugsおよびFTY720の効果
Drugs Doses (duration) Mean number of enhanced lesions (placebo) Annualized relapses rate (placebo) Proportion of relapse-free pts (placebo)
IFNβ1a 30 μg im weekly (104 weeks) 0.8 (1.65) 0.61 (0.9) 38% (26%)
IFNβ1b 250 μg sc every other day (2 years) 2 (4.9) 0.84 (1.27) 31% (16%)
Mitoxantrone 12 mg/m2 iv every 3 months (2 years) NA 0.35 (1.02) 57% (36%)
Natalizumab 300 mg iv every 4 weeks (2 years) 0.1 (1.2) 0.23 (0.73) 67% (41%)
FTY720 1.25-5 mg po per day (6 months) 1.25 mg: 1.29 5 mg: 0.27 (2.21) 1.25 mg: 0.35 5 mg: 0.36 (0.77) 1.25 mg: 86% 5 mg: 86% (66%)

(Expert Rev Neurotherapeutics 2008; 8: 699-714より一部修正)

インターフェロン(IFNb1b)

作用機序としては、抗原提示の抑制、Th1からTh2へのシフトと、ICAM-1やVCAM-1発現を抑制することで、T細胞の中枢神経への侵入を阻害する。

治療効果

IFNb1bを投与しても効果がない患者さんがいる。こういうヒトたちをnon-responderとよんでいる。non-responderの確立した定義はない。投与前から効果の有無が推定できれば良いが、未だに確立した方法はない。OSMSではCMSより効果が乏しいとか、ベタフェロン投与1ヶ月ほどで再発が認められるケースが10例ほど国内で報告されていて、そのほとんどがOSMSであることから、OSMSではCMSとは異なる病態が関与していることが予想される。OSMSでは禁忌とまでは言えないが、注意深い観察が必要であるし、今後、何らかの対策が考慮するべきと思われる。

IFNb1b投与により、中等度・高度の再発が約50%減少する。再発抑制効果の発現には1ヶ月以上を要するので、投与早期に再発したからといって中止するべきではない。最初の再発までに要する期間は、投与群で295日、プラシーボで153日だったという報告がある。また、脳MRI造影効果が投与前に比し、1/8に減少し、T2強調画像で新病巣と拡大病巣の総和である活動病巣面積が劇的に減少する。T2強調画像での総病巣面積は、プラシーボ群では年平均 6%増加するが、投与群では5年間増加がほぼ抑制される。しかし、EDSS障害度や脳萎縮の進行の抑制は充分とは言えず、軸索障害への抑制は困難である。一般的に、現在、治験レベルも含めて本症で使用されている薬剤のほとんどは再発防止であり、炎症を抑制する作用であり、神経変性過程を抑制する薬剤の開発が今後の課題といえよう。

投与方法

患者さん本人あるいは家族が隔日に皮下注射をおこなう。どうしてもできない場合、訪問看護ステーションの看護師の助けを求める場合もある。後述するように、皮膚の局所反応を防ぐために、注射部位を左右の腹部、左右の大腿を順番に交代でおこなう。

自分でシリンジを刺すことができない場合、ベタアシストという補助具を使用することもできる。ただ、音が大きいなどの理由で、意外に利用されることは少ない。

副作用とその対策

副作用としては、注射部位の局所反応、発熱などのflu-like symptoms、うつ、頭痛などが挙げられる。 注射部位に発赤や腫脹、硬結がしばしば認められる。稀には壊死になることさえある。これを予防するには、ビデオなどのマニュアルにも説明してあるが、注射部位を左右の腹部、左右の大腿などを利用して、同じ部位に短期間で反復注射しないようにする。

ただ、なかには、8日間間隔が開いて同じ部位に戻ってきた際に、注射しやすいからと、再び同じ場所に注射してしまう患者さんもいらっしゃるので、同じ部位といっても3 cm以上離して注射するなど具体的に説明することが望ましい。

両手はあらかじめきれいに洗い、注射液は注射前にあらかじめ手で温めておく。あらかじめ30-60秒間、注射部位を氷で冷やすと、疼痛や腫脹を予防できる。発赤が生じたら、ステロイド軟膏を塗布する。壊死になったら、外科医に相談する。壊死を生じるようだと継続が難しくなるが、筋注では生じないといわれるので、皮下注射より深めに刺すことも良い。欧米では筋注タイプの他のIFN(Avonex)に変更も可能だが、国内ではまだ発売していない。推奨はしないが、皮下注射ではなくて、少し深めに注射する手はある。

発熱、頭痛、寒気、倦怠感などのflu-like symptomsもしばしば認められる。投与開始時、1/4から1/2量から始め、体を慣らすと良い。これは特に投与開始6ヶ月以内に出現するので、開始当初だけ鎮痛解熱剤を注射する前に服用すると抑えることができる。多くは、1-3ヶ月ほどで中止できるが、稀には3年以上経過しても鎮痛解熱剤を必要とすることもある。

うつは、当初問題となり、自殺者も出た。投与量が少なくなって、頻度は減少しているが、最近、再び投与量を増加する動きがあるので、今後、対策が重要になるだろう。うつ症状が出現したらIFNを中止し、SSRIなどの抗うつ療法をおこなう。うつ症状が良好に治療されている限り、安全にIFNは使用できるとされているが、もともと、うつがある場合、IFNの投与は難しいと思われる。

検査所見では、肝機能障害、白血球減少、好中球減少、リンパ球減少などが認められることがある。  IFNに対する抗体が生じると、IFNの効果が乏しくなるとも考えられたが、長期投与で消失することが少なくないし、必ずしも抗体の有無と効果が一致しないともいわれており、中止の判断基準にはならない。

他の予防法

定期パルス

4ヶ月ごとにステロイド・パルス(1g/day for 5 days)を行うことで、T2強調画像で認められる脱髄病変の拡大や再発率を抑えることはできないが、T1強調画像でblack holeとして認められる壊死病変の拡大や脳萎縮の進行を抑制できる、と言われている(Neurology, 57:1239-47, 2001)。

Mitoxantrone

急性白血病や悪性リンパ腫、乳癌などに保険適応されているが、もちろんMSでの適応は本邦ではない。欧米では、すでにMSで使用されることは常識とされている。当院では倫理委員会の承認の元、すでに10例以上の患者さんに投与して、良好な結果を得ている。 

副作用としては、特に心毒性が強く、一生のうちの投与量が140 mg/m2以下と設定されている。当初はヨーロッパでずいぶん心不全で死亡したが、実際に、この限界近くまで投与することは少なくなり、次第に1回投与量も少なくなり、むしろ、長期間投与する方向へ変わってきているように思われる。

国内でも少しづつ投与例が増えている。最大でも1回投与量は、12 mg/m2程度に留めるべきであろう。総投与量が多くなければ心機能(left ventricular ejection fraction)への影響は心配しなくとも良いが、投与前には心電図や心エコーによる心機能のチェックは必要である。心機能への影響は薬剤中止後も持続するので、注意が必要である。

また、胎児の奇形性への影響があるので、妊娠する可能性がある女性には投与するべきではないし、治療中は妊娠を避けるべきである。投与後、4日後から7日後頃に、白血球が減少する。週に2回ずつ検血をチェックし、白血球が2000以下になるゆだったら、G-CSF投与を考慮する。末梢血血液像で単球が増加してくれば、白血球は立ち上がってくる。血小板数にも注意する。1例、白血病になったという報告があり、あらかじめ説明しておくべきであろう。

Plasmapheresis

埼玉医大の野村教授が定期的に血漿交換することで、再発を予防できる可能性があることを報告しているが、まだ数例のデータであり、対象となる病型や方法など、今後の検討が必要である。

再発について注意するべきこと

一般的な定義は、前回のエピソードが改善を始めてから30日以上経過した後に、新しいあるいは従来から存在している症状が増悪し、24時間以上持続する場 合、とされていますが、これはあくまでも臨床研究上、同じ基準で比較するための定義で、24時間以上経過しないと再発ではないので、検査もステロイドパル スもしない、という理由にはなりません。炎症病変を待つ理由はなく、速やかに治療をするべきです。30日以内に症状が増悪した場合、臨床疫学的には再発と は言いませんが、急性期の治療をするべきです。

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